キックアウト・ラヴァーズ (1996年・山本夜羽・講談社)

キックアウト・ラヴァーズ
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キックアウト・ラヴァーズ


*真城の城レビュー*

 作者の名前は「やまもと・よはね」と読みます。
 それにしてもマーケットプレイスというのは本当に凄いもので、私の年代のTSファンですと正に
「幻の一冊」であったキックアウト・ラヴァーズすら手に入るのだから本当に「若い人が羨ましい」です。私たちの年代ですと、一冊該当作情報が手に入ったと同時に果てしない古本屋探索の旅の開始となります(;´Д⊂…。

 わが国でインターネットが本格的になったのがダイヤルアップ接続のテレホーダイから常時接続のブロードバンド時代になってからであると考えるならば「黎明期」の少し前に発売された一冊ということになります。
 つまり、当時は「TS該当作品」なんてものは情報サイトも無いし、
個人が収集できる範囲でどうにか目に入ったものを偶然買う、レベルでしか無かったんです。
 ですから私がこの作品の存在を知ったのも発売からかなり経ってからで、普通に絶版・品切れ状態でした。
 自慢ではありませんが現・「八重洲のメディアリサーチ」(当時は「八重洲の性転換の館」)に掲載されている該当作品を必死にメモして新刊書店に突撃し、
20冊のリストを渡しても入手出来たのは3冊とかは当たり前でした。

 1996年というと、Windows95は発売になってますがWindows98がまだ発売されていない時代。ちなみにこれは短編集で、中には1995年10月に放送開始になっている
「新世紀エヴァンゲリオン」に嵌(はま)っている外国人オタクを巡るエピソードなんてのも収録されています。

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 中でもTS該当作なのが「第1話 みのるくんの修行時代」。
 この漫画が数あるTS作品の中でも特に名高いのは、
「TSによるデメリットを正面から描いている」という点です。
 これが希少種であると言われるほど実は漫画・アニメにおけるTSというのはメリットが前面に押し出されていたんですね。

 いや、そりゃ正面から狂喜したりはしていませんよ。でもらんま1/2で性転換体質を知られて嘆くらんまに対し、響良牙が
「そんな可愛らしい姿で不幸を名乗るとは笑止千万!」と啖呵を切りますが、…実際その通りです。
 これは興味深いテーマなので誰か研究者とかが真面目に考察して欲しいんですけど、ある時期まではTS作品というものは「最後には元に戻れるよね」と読者にも作者にもどこか安心感がありました。「結局戻れません」みたいな作品って少数派だったと思うのです。

 つまり、「変身の醍醐味」である
「可愛くなっちゃった自分」にうっとりするとかせいぜいその程度で、本当の意味で「女として生きていく」ことに焦点を合わせた漫画というのは珍しかったのですね。
 そりゃそうでしょう。
いつかは戻れるんだし、だったら楽しんじゃった方が得です。女としてのデメリット?あるのかもしれんけど、まともに考えてもしょうがないじゃん。

 先日、とあるバラエティ番組で司会者のコメディアンが「我々男は一度は女になってみたいものなんですよ」的な発現をした際、美人のタレントが「え~でも、月のものもありますし…
大変ですよ」と切り替えしていました。
 この瞬間、その女性タレントのコメントには
滲み出すようなリアリティがありましたねえ。
 何というか、「え~だって、
どう考えたって男の方が得でしょ?」という様な「何を当たり前のことを言ってるの?」的な響きが多分に含まれていたんです。
 私の好みではなかったものの、その方は間違いな
く「美人」に属する容姿をお持ちであり、ありていに言えば「女のメリット」を十分享受できるであろう立場にいるにも拘らず、「男の方が幸せなのは当たり前」みたいなリアクションを取るのは意外でした。

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綺麗かつ可愛らしくなってはいるけども、生活感に溢れた数々の描写。
見る限り女性ものの下着の気持ちよさ…とかよりも疲れて汗の張り付いた感触すらして来そう。


 女性になっている期間が長期間に渡るTS漫画で見過ごされがちなのが
月経ですが、これをミニスカートから流れ落ちる一筋の経血のみで表現している辺りがこの漫画がカルト人気(?)を博している理由でしょう。
 決してヒステリックに「女はこんなに嫌なものなんだ!」とは言わず、かといって過剰にメリットを強調することもしない、という抑制の効いた筆致。

 ちなみに主人公は女性になったものの、「男が女になった状態」であるとは認識されず、
全く新しい別人であると認識されているのも変り種。
 こうなると大変ですよ。何しろこれまで自分が存在していた居場所が軒並み使えなくなりますから。

 皆さんちょっと想像してみてください。サラリーマンさんでも学生でも結構。
 朝起きたら(アウェイクニング・キャプサイズ)女性になっていたとします。
 当然
昨日までの自分とは認識してもらえません
 現実にそんなことが起こっても普通に何事も
無かったかの様に女子高生として可愛い制服着て学校行ったりは出来ませんし、OLとして会社に行ける訳も無いんです。
 そんなことは
ちょっと考えれば分かることです。しかし、そういう俗世間の雑事から逃れて一時の幻想に酔うのがTSものの社会的使命です。

 ですが、少し真面目に考察してみると大変なことは数限りなくある訳です。


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女に対しては横暴な悪友。
少し前に「いいからとにかくやらせろ」的な態度で主人公を幻滅させてます


 ある意味リアル系(?)TSものである性交渉もあっさりと「ちっとも気持ちよくない」でスルーされてしまっており、「女の子になる」ことを無邪気に
「夢一杯」に表現していた「フレックス・キッド」あたりとは正に対極。描写が淡白なためにこの作品アマゾンカテゴリでも「18禁あり」になっていません(だから紹介できます)。
 確かに、その
「最後の砦」は多くの作品がクライマックスに持って来ている目玉です。
 オレの愛するアタシみたいに
一冊掛けても描くことも出来なかったそれは、ある意味「そこさえよければとりあえず許せる」ものではないですか?例えば「悪徳なんてこわくない」とか、本当に「女としての男とのセックス」に夢見すぎですよ。
 ところがそれすら
ちっとも良くないではもう「女であるメリット」なんて本当に皆無です。ああ、男に戻りたい。

 普段私は「なんやかんや言っても快感原則でないと」と言ってますが、実はこの作品程度のスパイスならば
大いに歓迎だったりします。
 というのはとても真摯で真面目な人間考察になっており、「立場を変えた新しい視点の提示」という本来フィクションが担うべき役割を
TSという大変すばらしいアイテムで実現してみせているから。
 結末は明かしませんけど、後味もとてもいいのでオススメ。
 18禁ありの中には沢山あるんですよ「女になってはいるけど、ちっともいい目を見ない」系統のお話。そういうのって結局は○○○まくりってことでしか無いんですよね。確かに戻れないとかのバッドエンドも多いし。でもそういうのって結局、後味が悪いばかりか結局は
掘り下げが浅薄なんですよ。

 とにかくアマゾンでまだ入手出来るってのが本当に驚き。
 今回は紹介していませんが、残りの短編も粒ぞろいでとてもいい作品です。私は山本氏が描く女の子の泣き顔(?)が物凄く哀愁があって大好きなんですよ( *´∀`)。
 昔からTSサイトめぐりをしていた方ならば恐らく「名前だけは聞いたことがある」作品の筆頭でしょう。「え?あれって入手できるの!?」状態なのではないでしょうか(^^。
 このチャンスにどうぞ!2006.11.23.Thu.


追記:
遂に電子版登場!
***

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