弱弱しくそういうしかなかった。

「やめてって何だよ…(失笑)。まるでオレがいじめてるぅ~みたいな」
同じ高校生とは思えないほど憎々しげな表情で目の前のいじめられっ子が迫ってきた。
厄介なことに外面がとてもいいので、彼がいじめの首謀者などとは誰も信じようとはしなかった。
一度思い切って訴えてみたことがあったが、信じてもらえないのみならず「虚偽の告げ口でクラスメートを貶(おとし)める卑劣漢」扱いをされてしまった。
当然、翌日には「チクリ」の制裁としてより苛烈な仕打ちがまっていた。
波止場に呼び出された理由は分かっている。
何時(いつ)かの様にまた海に突き落として遊ぶ積りなのだろう。
よく、「どうせ死ぬなら死にもの狂いで相手を道連れにする程度のことが何故出来ないのか」めいたことを言うでくの坊がいる。
いじめの人間関係は一種の洗脳だ。「逆らってはいけない」という支配関係の構築が為された間柄にあっては「逆らうこと」によって齎(もたら)される惨禍への恐怖が何をも上回る。
嗚呼、神様…どうかこのいじめから逃れさせてください…。
その時だった。
「…!?」
身体に違和感がある。
「…な、何!?」
別の生き物の様に髪の毛がうねり、滑らかに伸びて行く。
「あ、お前…?」
目の前でいじめっ子も目を剥いていた。余りにも展開していた光景が異常だったからだ。
「うわ…そ、そんな…あああっ!」
元々細かった身体が尚、細くなり、ウェストがくびれて行くのが分かる。
目の前に翳(かざ)した指が、なおも細く長く美しく白魚のようになっていく。
「あ…あ…あぁ…」
瞳がぱっちりとし、元から綺麗だった肌が大理石の様に滑らかになる。
唇が小さく可愛らしく整形されていき、薄いピンク色のさくらんぼの様になった。
「んっ!!」
むぐぐ…と胸の二つの頂点が押し上げられていく。
内股気味だった脚が密着し、そしてヒップが控え目ながらも丸みを帯びて膨らんだ。
「そ、そんな…」
変化は待ってくれなかった。
「んぁっ!」
アンダーバストを何かがキツく締め上げ、そのままひも状のものが肩に食い込む。
先ほど胸に出現した膨らみを覆っていることは明らかだった。
「あ…」
丸く膨らんだ形状の内側にくまなく自分の身体の一部が密着していることが感じられる。
そ、そんな…これって…ぶ、ぶ…
突如ふわりと脚が解放された。
「ひゃあっ!」
思わず自分のものとも思えない甲高く可愛らしい声が出てしまう。
いつの間にか脚が全てむき出しになっていた。
するりと脚の内側の素肌同士が触れ合う。
「あ…」
自分の身体なのにその官能的な感触に一瞬我を忘れそうになった。
髪の毛はいつの間にか結んでまとめられていた。
「あ…ああ…」

彼は一瞬にして、地味だが陰のある美少女となり、制服姿の女子高生となってしまっていた。
「お前…おん…なに…」
「これって…女子の…制服!?…身体も…下着…まで」
いじめられっ子が驚いているところに一陣の風が吹き抜けた。
「きゃっ!」
慌てて押さえたが、清楚な下着を見せつけてしまった。
「あ、可愛い…」
「え…」
いじめられっ子は恐怖の余り固まっていた。
その儚(はかな)げな表情はいじめっ子の保護欲を刺激した。
いじめられっ子は、その日より彼によって「いじめられる」ことは無くなった。
(END)
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