TSショートショート 006 花嫁にされた勇者

 その国には何も無かった。
20160222001-1.jpg 荒れ果てていた。
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 かつて魔法文明を誇ったらしいその国のあちこちに、とても人間が作れたとは思えない建造物などが廃墟と化していた。

 巨大な円筒などがそうだ。一体何に使っていたのか。

 とある「魔王」の出現でこの国の運命は暗転した。

 以降は見る影もない。

 とある冒険者が雇われた。

 王に請われ、国境近くにある魔王の城へ単身乗り込んで討伐して欲しいというのだ。

 軍隊を引き連れて行ったところで勝てるとは思えない。むしろ戦士が単身行った方がまだ勝ち目があるという。

 また、永きにわたって権勢をふるっていた魔王もそろそろ寿命が尽きかけているともいわれている。

 そうなると、最初に首を獲ったものの栄光は大変なものとなり、場合によっては自らが覇権を握ることすらありうる。

 その風評を信じて乗り込んだ勇者たちは…果たして一人も生還していない。

 平均寿命が四十そこそこのこの世の中にあって、二十代も半ばに差し掛かろうとしている『勇者』にとって、これは最後の賭けだった。

 人気のない古城…。

 たったこれだけの情報を得るために斥候が何人も帰らぬ人となっている。

 乗り込んだ勇者は、「魔王」と邂逅した。
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「…っ!?」

 気が付くと魔王は背後に立っていた。

「お前が…魔王…!?」

 髭もじゃの大男、或いは禍々(まがまが)しい雰囲気を漂わせる魔導師…といった想像をしていたのだが、まるで違っていた。

 まるで若い女を思わせる美男子だった。

「やれやれ、また勇者か…」

 目の前が暗転した。



 目の前に広がる古城。
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 暗雲立ち込める黄昏時だった昨日とは全く雰囲気が違う。

「どうかな?今の気分は」

 魔王が涼やかな声で尋ねる。

「…」

 勇者は答えなかった。

「特別にあつらえさせた衣装だ。窮屈ではないはずだ」

「…」

 勇者は魔王の呪いの魔法によってその肉体を女のものへと変化させられ、そして純白の花嫁衣装を着せられていた。

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「貴様…なぜこんな…」

「おっと、化粧が歪むぞ」

 しゅるるるるっと衣擦れの音をさせ、身体をひねると、一拍遅れて“ざざざざざぁ~”っとドレスの大仰なスカートが引っ張られる音がする。

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 ドレスのスカートは余りの生地の量に『勇者』の周囲半径身の丈ほどに丸く広がり、部屋の床を覆い尽くしそうだった。

「決まってるだろうが。面白いからだよ」

「なっ!」

「そうやって誇り高く屈強な男の表情が恥辱と屈辱、そしてほのかな悦楽に染まるところを見るのが何よりの楽しみでね」

「この…変態野郎…」

「言葉遣いも変えてやることもできるがもう少し楽しませてもらう。分かってると思うが今日これからお前と結婚するのはオレじゃない」

「え…」

「部下のオークだ。ガサツで乱暴だが情は深い奴だ。そして何より…タフだ」

「くっ!殺せ!いっそ殺してくれ!」

「誰がそんな勿体ないことをするか。それにオレとお前は結婚しないとは言ったがセックスしないとは言っとらん」

「え…」

「何だその表情は?まさか期待していた訳ではあるまい?」

 花嫁の頬がかあっと紅くなった。

「ば、バカな!そんな訳があるか!」

「期待させちまうと悪いんで先に言っておくが、別に愛人はお前ひとりじゃない」

「え…」

「オレはハーレムを持っててな。そこに常時100人は美女を囲ってる。お前もその中の一人になるんだ」

「そんな…この国にはもう若い女なんて殆(ほとん)どいなかったはずだ」

「若い女じゃない。そいつらは全員、オレに挑んできた勇者どもだ」

「な…!!」

「別にこっちから頼んでる訳じゃないんだが、次から次へとやってくるんでな」

 元・勇者…現・花嫁の露出した首筋がうっすらと透けるウェディング・ヴェールごしに青ざめるのが分かった。

「そろそろその口調も終わりだ」

 魔王が手をひょいっと動かした。

「あ…」

「これでもう口調も仕草も女そのものだ。心配するな。記憶と感情は男の時のままにしてある。身体が勝手に女として振る舞ってしまうだけだ」

「そん…な…」

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「さ、行こうか」

 衣擦れの音が、か弱い耳に届く前にアクセサリーの音にかきけされた。

(END)

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