TSショートショート 002 ゾンビの日


 世界の終りってのはこういう風に来るのか…。

 茫然とそんな風に思った。
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 巨大なオフィスビル丸ごとがウチの社の社屋だ。
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 数日前から発生したらしい全世界的な災害…細かい経過は省くが、要するに我々は閉じ込められてしまったのだ。このビルに。

 最初の内は付けっ放しになっていたテレビのニュースが刻々と状況を伝えていた。

 ラジオもインターネットも付けっ放しで、可能な限り情報を集め続けた。

 まず最初にテレビが落ちた。

 次にラジオも雑音だらけになる。

 恐らくアンテナが機能しなくなったのだろう。

 衛星放送を受信しようと頑張っていたが、受信そのものは出来ても放送する中身が問題だ。数日前のニュースと天気予報を延々ループしてる。
 管理する人間がいなくなっているらしい。そしてこれも直(すぐ)に映らなくなる。

 残るはインターネットのみ。

 ビルの住人…いや、住んでいる人間はいないオフィスのみのビルだが…はめいめい帰宅し、建物をメインテナンスする人間すらいない。

 5階にたった2人、オレと同僚の男のみが残された。

 二人とも帰るあてのない一人暮らしだ。親兄弟とも絶縁しているか、死んでいる。

 騒動が始まってからすぐに近所のコンビニで確保した大量の食べ物はあるが、遠からず底をつくだろう。
 あらゆる階の冷蔵庫などの中身をかき集めたが微々たるものだった。

 遂にインターネットも落ちた。

 そして、人類最後の通信手段と期待された「アマチュア無線」…偶然ビル内にあったのだ…も誰も答えてくれる人間がいない。

 供給が不安定になっていた電気が落ち、遂に水道が出なくなる。

 夜はただっぴろいオフィスで布団にくるまって寝るしかない。
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 昼の間に太陽光発電のパネルを蓄電池に繋いで懸命に電力を確保しようと努めるが、出来たとしてもオフラインで携帯アプリで遊ぶくらいしか出来ないんじゃ甲斐もない。

 LEDランタンは乾電池一つでかなり持つらしいので一晩中付けっ放しにしてある。

 これまでの話を総合すると、どうやら人類は「ゾンビハザード」に見舞われたらしい。

 人間が次々にゾンビ化し、人を襲い始めたのだ。
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 噛まれた人間は次々にゾンビに感染し、ネズミ算式に被害者を増やして行く。

 あっというまに人類の文明社会は終わりを告げた。

 ビルの5階から見下ろすと、確かに見える限りの道路をゾンビの群がうようよ歩いている。

「…最初のゾンビはどいつなんだろうな」

「…さあな」

 元々それなりに仲が良かった2人ではあったが、この極限状態では話すことも尽きる。

 インターネットの書き込みによると…、どこからか感染が広がったと言うよりも、突如目の前の人間が変形してしまう現象があちこち…世界中…で起こったらしい。

 ゾンビもその一部に過ぎないらしいのだ。

「これからどうなっちまうんだろうな」

「さあな」

 不思議と二人とも冷静だった。事態が余りにもムチャクチャなので逆に冷めてしまっている。

 だが、一つ確かなことがある。
 食料が遠からず尽きるってことだ。

 その時だった。

「…?何だ?」

 身体に異変を感じた。

「?」
「うわ…うわあああああっ!」

 瞬く間に肉体がうねり、変形が始まった。出るところは出て引っ込むところは引っ込み、そして…肉体のみならず衣類までが異形の形状に変わり果てて行く。

「な、何だぁ!?…これはぁ!?」

 彼は栗色の長い髪をなびかせ、鮮やかな朱色のリボン状の装飾を施したスーツ姿の…OL…オフィスレディ姿になってしまった!

 無論、肉体も妙齢の女性のものとなっていた。

「バカな…何が起こって…えええっ!?」

 自らの変わり果てた肉体を見下ろす男…いや、今は女。その声も以前とは違っていた。

 外見からは分からないが、その肉体に直(じか)に密着する下着までが女物へと変貌していたのは言うまでもない。

「まさか…世界中で…こんなことが…!?」

 目の前に迫る気配を感じた。

「…!?」

「お前…綺麗だな…」

「お、おいバカやめろ…」

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「オレは男だぞ!」

「今は女だ」

「よせ!よせえええっ!!」

 走り出す女。
 だが慣れぬタイトな膝丈スカートに躓(つまづ)き、バランスを崩してよろめいてしまう。

 空中で服の一部を鷲掴みにする男。

 ビリビリビリッ!と丈夫な上着がはぎ取られ、ブラウスが引き裂かれてブラジャーの一部が露出した。

「いやっ!いやああああああーっ!!」

 ゾンビが地上を埋め尽くしつつある地上の、数少ない生き残りたちに降りかかった謎の災厄のほんの一例である。

(END)

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